「住環境」は年中、天候によって影響を与えられています。

 
「住環境」は年中、天候によって影響を与えられています
 

住宅の「温熱環境」とは

 気象と気候の違いは、短期間に起こる気候の変動が「気象」で、長期間(季節や年間)の変化が「気候」、2~3時間の変化が天候です。天気の気候は地球単位の大きな気候変化ですが、室内の空気の流れや暖冷房は「室内気候」といいます。
さらに布団の中の睡眠時の気候を「寝床内(しんしょうない)気象」というように、住宅の「温熱環境」は関連する3つの気候に支配されています。「室内気候」は文字通り室内の気候ですが、「寝床内気象」とはふとんの中の気象のことです。この3つの気候が、「住環境」や住まいの快適性、安眠にも関係しています。
 

「室内気候」とは

 「室内気候」とは、外気の気候と同じように、住宅の中で発生した熱や湿度で、効率的にコントロールすることで、より快適な「室内環境」が可能になるということです。
 
「室内気候」を快適にコントロールするためには、外気の影響を排除したり、逆に窓から太陽光を入れたり、再びカーテンで遮ったりなど、住宅を快適に使うための住宅の高性能化が必要になります。「室内気候」を活用するために必要な住宅性能は、「高断熱・高気密性能」と効率的な住環境の実現で、エアコン等の活用で「室内気候」を整えることができます。住宅に対する積極的なアプローチで快適な住環境を省エネルギーで造ることもできます。
 

住宅の快適性は測定できる

 通常の住宅の使い方を「科学的」にとらえ直して、工夫することで住宅設備の使い方や役割も全く異なった働きをします。さらに住宅を「環境」ととらえ直してみることで、省エネルギーに対する概念も変わってきます。住宅の快適性については、室内の「体感温度」の測定で体感することもできます。
 

「体感温度」とは

 「体感温度」の簡易的な測定式は、「(室内表面温度+空気温度)÷2」です。
 
例えば、室内表面温度が20℃で、空気温度が23℃の場合は、(20+23)÷2=21.5℃で、ほぼ理想的な「温熱環境」です。(室内表面温度18℃+空気温度20℃)÷2=19℃というように計算します。
 
本格的には、壁の温度は温度計で測定しますが、室内中間温度はグローブ(黒球)温度計という黒い玉状の温度計で測定します。寒暖計を30 分位、部屋の中央につるして空気温度を測り、壁の寒暖計の温度とプラスして2で割ってみると大まかな「体感温度」を疑似測定することも可能です。
 

「室内気候」は、基本的に「温熱環境」6要素から構成

 
住宅の「温熱環境」は「空気温度」「放射(温度)」「湿度」「気流」「活動量」「着衣量」の6要素から構成されており、「温熱環境」を語る基本的な用語になります。この用語を覚えておくと、今後の「住環境」についての説明が理解しやすくなります。
 

空気温度とは

 空気温度とは、気温、つまり空気の温度のことをいいます。 室内の気温、屋外の気温、上空の気温などのように場所を示して表されます。 気象観測で単に「気温」という場合は、屋外で地上1.2~1.5メートルの高さで測った空気の温度のことです。
 

放射(温度)とは

 放射(温度)とは、壁や天井、床、家具などから伝わる熱のことで、長・短等の各種の「赤外線」で運ばれます。「赤外線」は太陽の暖かさとして感じたり、暖房器具が発する「赤外線」を熱として人体で感じたりしています。
 
温度のうち、地球上では、絶対零度という、これ以上低温にならない温度(―273℃)がありますが、「絶対零度」以上の温度を持つ物体からは、物体に応じた「輻射熱」が出ています。コンクリートの壁やガラス面に近づくと冷たく感じる場合がありますが、これはそれらの物体からマイナスの「輻射熱」が出ているから冷たく感じます。
 
「断熱材」は、このような冷たい熱や、逆に夏の暑すぎる熱(放射)を防ぐために施工され、それらの熱伝達や熱伝導を防ぐ役割をしています。
 

「湿度」とは

 「湿度」とは、空気中の水分量のことです。
 
夏の蒸し暑さは、熱と共に空気中の湿気が人体にへばり付くように発生しています。うちわであおぐと涼しくなるのは、人体から不快な水分量(温湿気)が吹き飛ばされるからです。
湿度の調整は微風で行うのが一番です。同じ温度でも微風が吹いていると、体温は変わらなくても涼しく感じます。
 
逆に冬は、湿度が高いと暖かく感じます。湿度を上げすぎると結露やカビなどが発生しますが、「インフルエンザや風邪」などは湿度に弱いと言われています。
 

「気流」とは

 気流とは空気の流れのことで、風の一種です。夏は快適に感じる気流も、冬は隙間風として寒さの原因になります。
 
「室内気候」を考える場合、この気流の扱いはとても重要です。冬に隙間風が発生し、気流を感じる住環境は隙間が多い住宅です。冬は寒いし、壁の隙間から「水蒸気」が侵入すると、壁の中の断熱材が結露する危険があります。
 
しかし、夏の「冷房効果」を高めるためには、この気流の有効利用が欠かせません。積極的に造り出した気流によって、快適性が倍増します。エアコンの冷房とサーキュレーターの組み合わせ等、隙間風でない気流は、冬も夏も有効で「室内気候」のコントロールができます。
 

「活動量」とは

 人体は活動すると熱を出します。それは体温の恒温状態(35.6~37.1℃)を守るためです。
 
人間(成人男子)は、椅子に座っているだけでも100Wの熱を出しています。作業内容で、かなり体感温度が変化しますから、家族の活動量を把握しておかないと住宅の中でも温度が高いと感じる人と低いと感じる人の差が出ます。大人と子ども、壮年者とお年寄り、介護人と介護者でも、活動量が異なるので体感温度は異なります。個々人の体感による「室温感覚」の違いを理解しておかれれば、家族間のコミュニケーションを円滑にするための一助になるでしょう。
 
さらに人体の発熱量も侮れません。成人1人100W の熱ですから、家族構成から発熱量を考えると、成人5 人の家族は、500Wの発熱をしていることになります。
100Wの電球5個分に相当する熱量で、冬は500Wの「電気ストーブ」がつけっぱなしの状態ですから、相当の発熱量になります。夏も同じように500Wの発熱量があるのですから、人間同士が近づいただけでも不快になる要素が生まれます。
 

「着衣量」とは

 着衣量はclo値(クロ-値)と呼ばれclo値で示します。裸の場合は、clo値=0.0、スーツの上下・厚いカーディガンに長いスカートの状態のように、冬に寒さを感じない着衣量がclo値=1.0の表示になります。着衣量によって、人体の感じる快適性は大きく変わります。暖かい室内に入室後、すぐに厚手のコートを脱ぎたくなるのは当たり前です。
 
以上が、「温熱環境」の6要素になります。
 

「寝床内(しんしょうない)気候」の特徴

 
 3 つめの気候は、「寝床内気候」という睡眠時の気候です。日本気象協会と西川株式会社が共同調査を行った「睡眠と熱中症の関係性」という調査結果が公表されています。寝室内温度と寝床内(布団の中)気候の関係というかなり特殊な気候についての調査内容です。
出典:日本気象協会と西川株式会社が共同調査を実施 「睡眠と熱中症の関係性」調査結果を発表
 

「寝床内気候」とは

 睡眠環境は夜間の室内平均気温が高いほど、前夜の中途覚醒時間が長くなり、睡眠効率が低くなる傾向が確認でき、寝室温度は「温度20℃±1℃」が適しているとしています。
 
 中途覚醒時間と睡眠効率を区分して夜間の平均温度の平均値を求めると、中途覚醒時間が2時間以上の人々の寝室気温の平均値は24.5℃です。中途覚醒時間が10分未満のグループの平均値は約21.5℃と約3℃の温度差があります。夜間の平均気温が上がると中途覚醒時間が長くなり、適正な寝室温度は「18~20℃」で十分だったようです。
 
出典:日本気象協会tenki.jp 睡眠と熱中症の関係性における調査結果レポート(2019年6月20日)
 

冬の寝室の高温は寝苦しい

 夜間の平均温度24.5℃と21.5℃のグループの3℃の温度差は、気温が上昇するにつれて睡眠効率を悪くすることを示しています。確かに断熱性能が悪かった時代の住宅では冬の寒さは大敵でしたが、近年断熱材の施工が義務化されてからの住宅では、断熱性能に見合った暖房(居室20℃±1℃・寝室18~20℃)で十分なのに、現在の一般住宅は、夜間の平均温度24.5℃と、「居室温度を夏の熱帯夜25℃」に近い温度まで上げすぎていることが日本気象協会と西川株式会社の研究成果として指摘されています。
 
 寝室に熱帯夜(25℃)を出現させて寝苦しい夜にして、暑いので汗ばんで布団からはみ出た子ども達が風邪をひく、という悪循環にもなっているようです。これから住宅性能は益々、高断熱・高性能化していきますが、住宅が必要とする居室温度を理解することで、高断熱・高性能化は高い省エネルギー性能へと変化させることが可能になります。
 
人体は36.5℃の恒温状態ですから、その温度よりやや低い、冬の布団の中は33±1℃が適正温度です。室内温度は18℃以上が睡眠に適した室内温度になります。逆に室温が18℃以下で布団の中と寝室との温度差が10℃もある場合は、脳血管疾患や心臓病の発症原因になりますから、高すぎる温度は寝苦しい環境を造りますが、温度が低すぎる住宅は健康リスクが高すぎる選択外の住宅です。
 
 夜間の平均温度24.5℃と21.5℃のグループの3℃の温度差が、気温が上昇するにつれて睡眠効率を悪くすることを示しましたが、多くの住宅では、冬の夜に夏の熱帯夜を寝室に出現させて寝苦しい夜にしているようです。
 

おすすめする寝室の室温管理はエアコンで20℃設定の朝までつけっぱなし運転。

 
 杏林大学・古賀良彦教授はお医者さんの立場で「寝室の睡眠環境としては、室温20±1℃、湿40~60%の環境づくりを目指し、温度については眠る少し前にエアコンを20℃±1℃に設定して運転するだけです。理想は寝室の温度を最適な状態で一定にすることなので、朝までつけっぱなし運転がおすすめです。」と答えています。
出典:DAIKIN NEWS LETTER 2020 年1月27日
 
気候と住宅の関係は、切り離すことは出来ない関係ですが、以上の3つの気候から考えると、室温の適正温度の管理で案外、簡単に可能なのかも知れません。