今回ご紹介するのは、ベルギーの伝統菓子「ミゼラブル」です。これはその昔、高級だった牛乳の代わりに水を使ってつくったバタークリームを、アーモンド生地で挟んだ庶民のスイーツ。埼玉県の川口駅近くにある「Chant d’Oiseau(シャンドワゾー)」のシェフパティシエ・村山太一さんは、「ベルギーでの修業中に食べたのですが、濃厚で美味しい反面、油っぽさや甘さが前面に出てややくどいな、という印象でした」と話します。そこで村山さんは、要となるバタークリームに、ヨーグルトのように爽やかで乳の風味の強いフランス産発酵バター「イズニー」を使用。さらに、粒状の塩とラムレーズンをバタークリームに混ぜ込みました。「濃度の高い塩味とラム酒の香りは、油っぽさや甘さを “ 切る ” のに効果的。ですから、これだけたっぷりバタークリームを使っても、くどくないんですよ」。濃厚でミルキーなのに後を引かない「ミゼラブル」は、今や同店のスペシャリテ。シンプルなお菓子に込められた、村山さんの力量が感じられる逸品です。
<PHOTO>ミゼラブル 436 円(税別)
甘さがしっかりありながら、キレのある味わい
「グルマンディーズ・デ・ドワゾー」は、キャラメルナッツのタルトとガナッシュを組み合わせたスイーツ。ムースのようにやわらかで口どけのよいガナッシュと、甘酸っぱいパッションフルーツを組み合わせることで、よりキレのよい味わいに。タルトとナッツのハードな歯ざわりも楽しい一品です。イチゴたっぷりの断面が食欲をそそる「フレジェ」は、フランス風のショートケーキ。通常よりやわらかくなめらかで、卵黄の香りの強いコクのあるクリーム・ムスリーヌが、イチゴの甘酸っぱさを引き立てています。
<PHOTO>グルマンディーズ・デ・ドワゾー 445 円、フレジェ 519 円(すべて税別)
「私福の時間とは?」
パティシエがプライベートで至福の時を感じるスイーツをリレー方式で毎月ご紹介。今回のミゼラブルを推薦いただいた村田さんのプランスノワールなどは vol.22 で掲載しています。
村山さんのお菓子づくりにおける一番のテーマは、素材を際立たせること。「素材のインパクトを大切にしているので、目を閉じていても何を食べているのかわかり、誰もが素直に美味しいと感じられるお菓子になっていると思います」と村山さん。例えば、バニラの風味が主役のお菓子は、バニラをふんだんに使うのはもちろん、乳製品の味を濃厚に仕立てて、さらにラム酒の芳醇さでバニラの甘い香りを引き立てています。バターは数種類を使い分けており、バターの風味を前面に出したいお菓子には、乳風味が強い北海道東部産のバターやフランス産の発酵バターを使用。フルーツのバタークリームやガナッシュには、それらを生かす副素材として乳風味の弱い国産の無塩バターを使うなど、緻密に計算して素材を組み合わせています。そんな村山さんが今、力を注いでいるのは、アントルメグラッセ(アイスケーキ)。「10種類ほど完成させて、アイスクリームの誕生日ケーキを提供したいです」と意欲的。これからの展開が楽しみです。
SHOP DATA
Chant d’Oiseau(シャンドワゾー)
多くの人々でにぎわう JR 川口駅の近くにたたずむ同店は、パリのパティスリーのような洒落た店構えが印象的。店内には、美しくデザインされたガトー約 22 種類をはじめ、焼き菓子やボンボンショコラが並びます。また、1日 3 回ほど焼くクロワッサンなどのヴィエノワズリーも好評で、焼き立ての味を求めて多くのファンが訪れています。2017 年 9 月には、同店から徒歩1 分ほどの場所にアイスクリームとチョコレート専門の 2 号店がオープン。併設のカフェでは、コーヒーや紅茶とともにシャンドワゾーで購入したお菓子が楽しめます。
村山さんが惚れこむ逸品は……
「『ラヴィルリエ』は、大阪のパティスリーを語る上で外せないお店のひとつ。ガトーやキッシュ、クロワッサンなども美味しいのですが、私は焼き菓子が大好きです。フィナンシェやサブレを食べるたびに、シンプルなお菓子をこんなに美味しくつくれるなんてすごい ! と感服せずにはいられません。きっとパティシエの服部さんは、ご自分でつくった商品をちゃんと食べて、もっと美味しくしようと努力し研究されているのだと思います」