焼き菓子[Patisserie an Du temps pour la maison]
焼き菓子[Patisserie an Du temps pour la maison]
「焼き菓子はもともと、ヨーロッパのお母さんが手作りしていたので、素材も配合もとてもシンプル。この店を始める時は、その原点からスタートしたかったんです」とシェフの櫻智行さん。その言葉通り、パティスリー アン デュトンプールラメゾンの店内に並ぶ焼き菓子は素朴なものばかりです。なのに、それぞれが強い印象を残すのは、主役の素材のナッツやチョコレート、フルーツの味わいが存分に生かされているから。生地に練り込んだラム酒シロップ漬けレーズンのジューシーさ、自ら作ったイチジクのコンフィチュールの甘酸っぱい爽やかな後口、ケーキなのにガナッシュのようなリッチな食感……と、それぞれの個性が際立ちます。櫻さんも奥さまもコーヒー好きとあって、コンセプトは「コーヒーの繊細な風味に合う焼き菓子」だそう。こんな焼き菓子があれば、いつものコーヒーもグッと美味しくなりそうです。
「私福の時間とは?」
パティシエがプライベートで至福の時を感じるスイーツをリレー方式で毎月ご紹介。今回の焼き菓子を推薦いただいた多田シェフのスフレフロマージュはvol.08で掲載しています。
ヘーゼルナッツのケークにチョコクリームとコーヒークリームを絞った「ベルニーニ」は、甘さとほろ苦さのバランスが絶妙。「妻と2人で店を営む理由を大切にしています」という櫻さんは、奥さまとのフィレンツェ旅行で味わったカプチーノの美味しさをこのお菓子で再現し、その時に泊まったホテルの名前をお菓子名にしたそうです。「キャラメルショコラ エ ノワ ド ココ」は、キャラメルショコラムースにココナッツ風味のバニラクリームを合わせたスイーツ。ローストして砕きヌガーを絡めたカカオ豆のガリッとした食感がアクセントになっています。
<PHOTO>左:ベルニーニ560円、右:キャラメルショコラ エ ノワ ド ココ540円(すべて税込)
「作れるものは作る」がモットーの櫻さん。料理人が魚をさばいたりソースを作ったりするように、アーモンドパウダーやフルーツピューレなどは自家製で、モンブランも栗を蒸して急速冷凍し、フードプロセッサーで“冷凍マロンパウダー”を作ることから始めるそう。「ナッツを砕いたり果物を刻んだりしていると、いい香りがして充実感があるんです。製菓材料を仕入れていると感じられないことですよね」と櫻さんは、一手間も楽しんでいる様子です。その姿勢はいたって自然体。新商品を考案する時も、気合いを入れて考えるというより「今、何が食べたいか」という感覚を大切にしています。「お菓子はもっと素直に作っていいと思う」と櫻さん。ピュアでしなやかな感性が個性になり、美味しいお菓子を生み出しているのです。
SHOP DATAPatisserie an Du temps pour la maison
(パティスリー アン デュトンプールラメゾン)
製菓コンクールで世界一に輝いた櫻さんが手がける、焼き菓子や生菓子などが購入できるパティスリー。カフェスペースも設けられており、生ケーキとコーヒーか紅茶をオーダーすると、グラニテとプチフールが付くという嬉しいサービスも。店内には、櫻さんが好きなアンティークの照明や北欧の置物のほかに、奥さまのかつての職場で使われていた菓子型をディスプレイ。お2人の歴史や趣味が感じられる、アットホームな雰囲気も魅力です。
櫻さんが惚れこむ逸品は……
「東京・南青山の『ショコラ・シック』が好きで、上京すると必ず立ち寄っています。どれも繊細で美味しいのですが、特に好きなのはチョコレートの焼き菓子『キャラメル ノア』です。初めて食べた時は、その食感と香りのよさに感激しました。シェフの足立由子さんとは、フランスのコンクールで手伝っていただいて以来のお付き合い。家庭と仕事を両立されているパワフルな女性ですが、いつも穏やかで物腰の柔らかい素敵な方です。お菓子を味わうたびに、作り手の人柄はお菓子にあらわれる、と感じます」