Ceramic art

大分の里山で受け継がれる美しい手仕事

「世界一美しい民窯」ともいわれる小鹿田焼(おんたやき)。大分・日田市の里山で昔ながらの製法と一子相伝の伝統を守りながら作陶されています。「飛び鉋(とびかんな)」や「刷毛目(はけめ)」といった技法に釉薬を使い分け、バラエティに富んだデザインが楽しめます。小鹿田の里にある、2つの窯元を2回にわたってご案内。


小鹿田焼とは

JR日田駅からバスでおよそ40分。終点の「皿山」で降り立つと、登り窯が一際目を引く山間の集落が広がります。ここは、国の重要無形文化財にもなっている小鹿田焼の里。江戸時代中期に開窯して以来、300年以上にわたって当時からの技法が受け継がれています。昭和初期には民藝運動の創始者である柳宗悦が訪れ、「世界一の民陶」と絶賛し、小鹿田焼の名が全国に広がりました。現在も、皿山地区内で採れた土を原料に、蹴轆轤(けろくろ)や登り窯といった機械に頼らない製法で焼き物づくりが行われています。

川のせせらぎに混じって聞こえる「ギー、ゴトン」という不思議な音。「残したい日本の音風景100選」にも選ばれているこの音の正体は、川の水力を活用した「唐臼(からうす)」。ししおどしと同じ原理で、地元で採取された原土を20〜30日かけて粉砕しています。

皿山地区の中心にある共同窯。斜面に沿って建てられた登り窯は迫力があり、窯焚きが行われると周囲にまで熱気が伝わってきます。共同窯では火入れすると約55時間にもわたって焚き続け、ガスや電気の窯と異なり、温度の管理なども難しいそう。


坂本浩二窯

小鹿田焼は、皿山地区にある9つの窯元が一子相伝で伝統的な技法を継承。その1軒「坂本浩二窯」を訪ねました。名陶工として評判高い坂本浩二さんは、日本民藝協会賞を受賞し、今後の活躍が期待される息子の拓磨さんと窯を営んでいます。小鹿田焼の代表的な技法「飛び鉋(とびかんな)」「刷毛目(はけめ)」だけでなく、美しい造形に多彩な装飾がそろうのも魅力です。


坂本浩二窯の器たち

小鹿田焼の「飛び鉋」は、白の化粧土を金属の鉋で削り、素地の黒土を文様として浮かび上がらせています。心地よいリズムを感じさせる文様と温かみのあるデザインが印象的。飛び鉋の肌触を直に楽しめる愛らしいフォルムの飯碗や、緑釉を用いた小鉢やコーヒーカップもラインナップ。
飛び鉋 7寸皿(約21cm)2,400円/飛び鉋 3.5寸飯碗(約10.5cm)1,300円/飛び鉋 4寸小鉢(約12cm)1,200円/飛び鉋 コーヒーカップ2,600円
※価格は取り扱いショップにより異なります(以下同)

部分的な飛び鉋と緑釉によりクラシカルな雰囲気を纏う器も。躍動的な抜き飛び鉋と飴釉の組み合わせは、どこかエキゾチックな趣です。伝統的な技法をベースにしながら、多彩な表現力に驚かされます。
飛び鉋 9寸皿(約27cm)6,500円/抜き飛び鉋 8寸皿(約24cm)3,000円

小鹿田焼のもうひとつ代表的な技法「刷毛目」の器。飛び鉋と同様にリズミカルですが、柄が大きく装飾性も豊か。おひたしなどシンプルな野菜を使った料理と相性がよさそう。縁のみ刷毛目を施した器は華やかな雰囲気です。
刷毛目 4寸皿(約12cm)900円/縁刷毛目 8寸皿(約24cm)3,000円


坂本浩二窯の工房

唐臼で粉砕した原土は、「水簸(すいひ)」と呼ばれる工程を何度も繰り返して精製。さらに濾過槽で水抜きし、天日などで乾燥させてようやく陶土が完成。土を買ってブレンドする一般的な窯元と違い、地元の土だけを使うため、扱いがなかなか難しいと坂本さんは話します。

「小鹿田の土は収縮率が大きく割れやすいため、成形前に底をしっかり叩いて空気を抜いて引き締めたり、ボディも土を紐状にして練りつけるよう成形したり独自の工夫が必要です。あと、同じ山の土でも掘る場所によって若干性質が違うため、焼き上がりの発色が変わるので、釉薬などで調整して土に合わせる必要があります。土は買ってブレンドしたほうが品質も安定し、早いし楽ですね。でも、地元の土に愛着もあるし、ここに魅力を感じているんです。効率やスピードが重視される今の社会で、時間をかける、急がないというのは逆に必要なことなのかなと」

蹴轆轤を操り、成形や装飾を行う坂本さん。刷毛目は、成形直後に白い化粧土をかけて、刷毛を使って化粧土に濃淡を加えることで文様を描きます。「もともと先人たちは、化粧土を使って真っ白なものをつくりたかったはず。でも、小鹿田の土だと化粧土が剥がれて綺麗な仕上がりにならない。そこで粗が目立たないように取り入れたのが、飛び鉋や刷毛目といった技法なのです」


坂本浩二さんにインタビュー

昭和初期より全国から注目を集め、現在も多くのファンを持つ小鹿田焼。つくり手から見たその魅力とは?

「川の水を利用した唐臼や登り窯といった機械に頼らず、自然のものでつくるというのが一番ですね。大雨で川が増水して唐臼が使えず、土がつくれないとお手上げです。自然の厳しさを直に受けるのですが、逆に考えれば、自然に生かされていると言えますよね。自然と共につくる。ここに大きな魅力があると思います」

地元の土、一子相伝、機械に頼らない。国内を見渡しても希少な存在だからこそ国の重要無形文化財にもなっています。こうした伝統とこれからのことについてうかがいました。

「他所から土を買ってきて、職人を増やせば生産量が増えるので、売上も増やせます。でも、これらを先人たちがやらなかったおかげで今があると思います。土を買う、人を雇う、設備投資する。事業として拡大すると、どこかでムリをしなくちゃいけない。ストレスなくつくるというのが一番。義務とか欲のない無心の状態でつくった物というのは、本当にいい出来栄えになるんです。こうした仕事の仕方が人間本来の自然な姿じゃないのかな。

300年以上続いてきたから変えてはいけないわけでもないので、いいものは取り入れたいとずっと思っているんですよ。“守る”というのは落ちていくだけなので、“攻め”も必要なんです。だから息子たち若い人には自由にやらせています。もちろん、売り物として世に出すには技術は必須ですが。

あと、小鹿田焼の古いものでいい物がたくさんあります。それらを現代風に少しアレンジするだけで、新しいものになる。重要なところはしっかり残しつつですね。僕はそうしたものを若い人たちに見せていくことで、これからの未来につながっていくと思います」


坂本浩二窯

大分県日田市鶴河内174
tel 0973-29-2467

[時]9:00~17:00

[休]不定休

※訪問時は要連絡


後編では、小鹿田焼の創造性豊かな若手作陶家をご紹介。10月下旬に公開予定